単語や文法を習得した後の次のステップとしてトレーニングすべき単元が英文和訳と言えるかもしれません。医学部入試のみならず全ての大学入試問題において出題頻度はとても高く、英語長文の中に「下線部を和訳せよ」という形式で出題される時もあれば、和訳すべき英文がそのまま出る時もあります。今回は医学部入試の肝とも言える英文和訳の対策について見ていきましょう。
「なんとなく」で訳すな!とにかく一言一句正確に訳すこと!
医学部を目指すような生徒なら、単語や文法は一通り抑えていることと思われます。しかし、そのようにしっかり勉強して知識には自信がある中で模試や添削問題の中の英文和訳問題に取り掛かり、自分ではしっかり意味を捉え、その通りの和訳文を書けた、という感覚があったのに、どういうわけか減点をされ納得がいかない…という経験のある生徒は多いのではないでしょうか。そのような場合は、大抵の場合、英文を間違った意味で捉えてしまったのがミスの原因ではありません。では原因は何かというと、出題の英文の日本語での意味を採点者に伝えきれておらず、「なんとなく」で訳していることです。
例えば、英文は過去形なのに、意味は通るからという理由から現在形で日本語に訳したり、指示詞を省略したりなどという訳し方をする場合です。意味は同じだからいいじゃないか、という言い訳は通用しません。点数を決めるのは採点者です。解答者であるあなたは採点者にとってはまな板の上の鯉であると肝に銘じましょう。
ではどのように訳せばいいのかというと、出題される英文について、とにかく単語ひとつひとつを丁寧に訳していくことです。日本語として自然になるようにするためなので流石に冠詞のaを「一つの」と訳す必要はありませんが、そのaが初出の意味のaならば「ある○○が…」というように、aのニュアンスもしっかり汲むという心がけが必要です。このほか上述したような、時制や指示詞なども見落としがちなポイントです。”its”などを訳出しなかっただけでも減点対象です。このように厳密に訳すことで、採点者が減点できるような理由づけの余地をなるべく小さくすることができます。
未知の単語の類推のためには、文型の分析を
いくら勉強しても、未知の単語に出会うことは避けられないと思います。その時にはよく「意味を類推せよ」と言われることが多いですが、何のヒントもなく類推をするのは極めて困難でしょう。特に、訳すべき英文のみ与えられる出題形式だと、長文の一部の和訳と違い、前後の文との繋がりがないため、ヒントは皆無と言っても良い状態です。しかし、わからない単語があるからと言って和訳を丸ごと諦めてしまうのはとてももったいないため、完璧でなくとももっともらしい訳を解答するのが良いでしょう。
そのような時には、英語の基本である文型に立ち返ることで、類推がある程度できることがあります。文型とはいわゆる英語の5文型(SV,SVO,SVC,SVO1O2,SVOC)のことで、わからない単語を含む文章が5文型のどれに属するのかをまずは判別します。その上で、例えばSVOC文のうち、Vを表す単語を知らなかったとしても、SVOC文とは総じて言えば「SがOをCにする」という意味であるため、Vを表す単語は「OをCにする」という意味で訳せばよいことがわかります。このほか、「SV 人 to do」 という形の文のVが訳せない場合でも、この文型はまず間違いなく「Sが人にdoするよう働きかける」という意味であるため、そのように訳せば良いのです。このように、未知の単語を含む文の文型を把握することはその意味の類推に非常に有効です。当然、英単語の数より英語の文型の数の方がはるかに少ないため、マイナー単語を暗記するよりは文型の知識を総ざらいする方が良いでしょう。
独学で上達するためには、厳しい採点を
英文和訳の勉強では、英語の先生に自分の訳文を添削してもらうのが理想ですが、問題集とその解答・解説を用いて独学でも伸ばすことができると考えられます。ただしこの時は、自分の訳文の自己採点は非常に厳しいものとすべきで、時制や指示詞などの細かい点にも厳しく目を光らせなければなりません。極端な話ですが、英文和訳を独学で上達させるためには「解答と一言一句同じ訳文でなければ減点する」くらいの厳しさで良いと考えられます。非常に厳しい基準のように思えますが、ある英文を満点解答として和訳できたときは、例えば模範解答が”but”を「しかし…」と訳しているところを自分は「だが…」と訳した、あるいは模範解答が「…である」となっているところを自分は「…だ」と訳した、というくらいの、同義語の別表現くらいしか違いがないことが多いです。それゆえ、英文和訳でミスしないことを目指す、という場合には、模範解答と一言一句同じものを目指すくらいの基準でトレーニングすることがちょうどいい負荷だと言えるでしょう。
おすすめ参考書
京都大学の英語の過去問
京都大学の英語の出題形式は例年いたってシンプルで、長めの英文和訳と和文英訳のみでした(最近では出題傾向が変わり、内容説明問題や自由英作文を出題するようになってきたようです)。医学部を目指すレベルの生徒には、難易度・長さともに英文和訳のトレーニングにぴったりな問題を過去出題してきたといえます。一年分をやりきるだけでもかなりの経験が得られるでしょう。
英文解釈の技術100
https://www.amazon.co.jp/英文解釈の技術100-大学受験スーパーゼミ徹底攻略-杉野-隆/dp/4342803119
こちらはタイトル通り、長文読解対策の参考書として難関大学志望者に人気なのですが、取り扱っている例文について、一文一文の文法事項などについての解説が非常に詳細なので、英文和訳のための教材としても活用できます。レベルは高いですが、根気強く食らいついていけばいつの間にか英語が非常に得意になっているでしょう。一つ一つの例文は長くないので、丸暗記するくらいの意気込みで臨みましょう。
駿台文庫「英文和訳演習」シリーズ(入門編、初級編、中級編、上級編)
30年以上のロングセラーを誇る本書は英文和訳の演習書の草分け的存在と言えるかもしれません。明確かつ一貫した採点基準が解答・解説で示されており、独学する際の強い味方となるでしょう。入門編は文法事項を一通り学習した高校一年生からでも取り組めますが、上級編では倒置などあまり見慣れない表現が含まれる英文が登場するくらいの難易度となります。英文和訳を得点源とするには非常に有益な参考書ですが、医学部入試でも大学によっては上級編では対策し過ぎなくらいだと考えられます。共通テストの点数重視の大学や、医学用語を出題する私立医学部などを志望している場合は、せいぜい中級編までで十分すぎるくらいの対策となるでしょう。上級編は京都大学など、英文のレベルの高い出題をする大学の志望者におすすめされます。
英文和訳に特化した参考書は比較的少なく、多くの受験生は志望大学の過去問で対策をすることとなるでしょう。しかし過去問の問題集では解説が手薄なことが多いため、少なくとも一冊は英文和訳特化の参考書を用意し、本番の試験で得点できるような解答の仕方を勉強しておくべきでしょう。